つり革につかまる時や、物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。また、前腕尺側と手の小指側に沿ってうずくような、ときには刺すような痛みと、しびれ感、ビリビリ感などの感覚障害に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状があります。
手指の運動障害や握力低下のある例では、手内筋の萎縮(いしゅく)により手の甲の骨の間がへこみ、手のひらの小指側のもりあがり(小指球筋)がやせてきます。
鎖骨下動脈が圧迫されると、上肢の血行が悪くなって腕は白っぽくなり、痛みが生じます。鎖骨下静脈が圧迫されると、手・腕は静脈血のもどりが悪くなり青紫色になります。
上肢やその付け根の肩甲帯の運動や感覚を支配する腕神経叢(通常脊髄から出て来る第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成される)と鎖骨下動脈は、①前斜角筋と中斜角筋の間、②鎖骨と第1肋骨の間の肋鎖間隙、③小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方を走行しますが、それぞれの部位で絞めつけられたり、圧迫されたりする可能性があります。その絞扼(こうやく)部位によって、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群(過外転症候群)と呼ばれますが、総称して
胸郭出口症候群と言います。
胸郭出口症候群は神経障害と血流障害に基づく上肢痛、上肢のしびれ、頚肩腕痛(けいけんわんつう)を生じる疾患の一つです。
頚肋(けいろく)は原因の一つです。
なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ労働者で、前述の症状があれば、
胸郭出口症候群の可能性があります。
鎖骨上窩の頸椎寄りのところの触診で、骨性の隆起を触れば頸肋の可能性が高いです。
上図の①,②の腕神経叢部を押すと上肢に放散する痛みを生じます。
X線(レントゲン)検査で、第7ときには第6頚椎から外側に伸びる頚肋がないかどうか、肋鎖間隙撮影(鎖骨軸写像)で、鎖骨や第1肋骨の変形によりこの間隙が狭くなっていないか確認することが必要です。
同様な症状を呈する頚椎
椎間板ヘルニア、頚椎症、肘部管症候群、脊髄空洞症、腕神経叢腫瘍、脊髄腫瘍などの疾患を除外できれば、
胸郭出口症候群の可能性が高くなります。
予防と保存療法が大切です。
症状を悪化させる上肢を挙上した位置での仕事や、重量物を持ち上げるような運動や労働、リュックサックで重いものを担ぐようなことを避けさせます。